「僕が出会った中で最も喉の筋肉の強い人物」ボーカル・コーチ、ゲイリー・コトナが語るホイットニーの声
夫ボビー・ブラウンとの結婚生活が破城しつつあり、ドラッグの依存がさらに深刻化した2005年前後、ホイットニーがトレーニングを受けた人物がいる。それがボーカル・コーチ、ゲイリー・コトナである。彼女の死後、ホイットニーの声の実態を知る人物としてスポットライトを浴びた彼。ホイットニーは声が出なくなり始めていた。コトナはその声のコンディションに衝撃を受けたが、一旦トレーニングをスタートするとホイットニーの声は直ちに向上し始める。そしてコトナは辛抱強くトレーニングを重ねるホイットニーに感銘を受けた。
様々なインタビューでホイットニーを「僕の出会った中で最も喉の筋肉の強い人物」「彼女ほど真面目で真剣な生徒はなかなか出会えない」と賞賛するコトナ。彼の知る限りホイットニーの声は順調に回復しつつあったという。現在廃刊されたVocalCouncil Magazine、2012年のレア・インタビュー「Whitney Houston’s Final Vocal Work」でホイットニーの声の状態について詳しく語っている。
May 6th, 2012 | by VoiceCouncil
Whitney Houston’s Final Vocal Work
Q: 初めてホイットニーと会った時の様子は。
アトランタまで仕事で彼女に会いに行ったんだ。それが初めて彼女と会った瞬間だよ。彼女は具合が良くないようだった。とても痩せていて、動揺しているようだった。酷い状態だった。彼女は自分の声に何が起きたのかわからなかったんだ。
・彼女の声のダメージはどれくらい酷かったんですか?
声と呼べるものは残っていなかったよ。話し声もガラガラだった。かろうじて低音域の1、2音のみがでるだけで、レンジと呼べるものが残っていなかった。声の代わりに出てくるものは空気だけだった。でもホイットニーは僕が出会ったシンガーの中で、おそらく最も強い喉の筋肉の持ち主の一人だね。
彼女がピークの頃、彼女は舌を下げた状態で、笑顔の表情を作って「イ」の母音を出していただろう。そして口元でなく喉の奥の空間に響かせる。声を失った状態でも彼女の持つテクニックがきちんと残っていたんだ。
・こうしたダメージの最も大きな原因はなんですか?
僕らは皆原因に気づいているだろう。彼女は(ドラッグに)溺れてしまった。それに彼女はタバコを吸う。喉の組織はそうした痛めつけるような扱い方に長い間耐えることはできない。彼女は声と才能を少しずつ失っていったのさ。
あなたは彼女の声を取り戻し、ラスト・アルバムを完成させツアーも終了させることができました。なぜ彼女の声はふたたび劣化したのでしょうか?
彼女が歌い続けられるようできる限りの努力はしたよ。だが声を鍛えて力を取り戻すかわりに、ホイットニーに20%の力が戻ると、周りの人間は彼女を(コンサートに)送り出してしまう。これが問題なんだ。40%の声が戻ると彼女はまたどこかに送り出される。そして僕達はなんとか60%の声を取り戻すことができた。彼女は次第に良くなってきたけれど、もっとトレーニングを積んで100%完全に回復するべきだった、少しづつ、じゃなくてね。それに多くの人は気が付かなかったかもしれないけど、沢山の人間の生活が彼女の肩にはかかっていて、そのプレッシャーも相当大きかった。
・声の完全な回復はあり得たのでしょうか?あなたに彼女の声を取り戻すことができたと思いますか。
それは疑う余地がない。レッスン中に時々以前の彼女が戻ってくる瞬間があったんだ。彼女の喉の筋肉は非常にアグレッシブで特別な共鳴を作り出すことができた。彼女の喉は全力で歌う準備が整っていたんだ。
・最後にホイットニーと話したのはいつですか?
彼女が最後のレコードを仕上げた後、連絡が途絶えたんだ。その後ビバリーヒルズでまたレッスンを始められたら、と電話があってね。それが約1年半前くらいのことかな、それが彼女からの最後の連絡だった。
・彼女の死はあなたにどんな影響を与えましたか?
僕は他の人と少し違った見方をしているんだ。彼女は48歳で亡くなったし、それ自体は悲劇だよ。だけど彼女が何を達成したか考えてみてほしい。彼女は歌の歴史とその流れを永遠に変えたんだ。
かつて誰かがこう言ったことがある。「最高のレシピの中には、最も不味い材料が使われているものがある」。偉大な人についても同じことが言えるんじゃないかな。ひどい話に聞こえるかもしれない。だがもし彼女が苦労を経験していなかったら、彼女は同じ人間ではなかっただろうし、私達も同じようには評価していなかっただろうし、おそらく私たちは彼女を最高の歌手とさえ思わなかったかもしれない。