ホイットニーが最も幸せだった時期に録音されたトラック『アイム・エブリ・ウーマン』

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デビュー前にホイットニーと同棲していた頃、ロビン・クロフォードがには一つの役目があった。それはホイットニーが将来歌いたい曲を思い付くたび、タイトルを手帳に書き留めておくこと。その数は膨大だったが、カバーの夢が実現した曲もある。その一曲がチャカ・カーンがオリジナルを歌った『アイム・エブリ・ウーマン』である。また15歳のホイットニーが、母親のシシーとスタジオでバック・ボーカルを吹き込んだのもこの曲だった。


映画『ボディガード』のサウンド・トラックに収録されたこの曲、映画中車内のシーンで数秒流れるのみで、大きな扱われ方はしていない。だがビルボードでは最高4位を記録し、ホイットニーのアップテンポを代表する1曲となった。クライブ・デイビスではなく、ホイットニー自身による選曲だった。

1992年10月半ば。サウンド・エンジニア、デイビッド・フレイザーはハリウッドのオーシャンウェイ・スタジオにホイットニーが到着した途端、彼にこう言ったのを覚えている。『私、2時間半以内にこの曲を仕上げなきゃならないの』

映画『ボディーガード』の公開も近づき、レコーディング、インタビュー、セリフの取り直し、マーケティング用のフォトセッションなど、ホイットニーは様々なことを同時にこなさなければならない超多忙な時期だった。


スタジオ入りしたホイットニーが、プロデューサーのナラダ・マイケル・ウォルデンに最初に言った一言はこうだった。「私、ボビー(・ブラウン)に本当に恋に落ちてしまったみたい!」

ホイットニーは自分がどれだけボビーに恋しているか、話すのを止めうとしなかった。「本当にハッピーだわ。私、ついに見つけたのよ。本当に愛するべき相手を」当時妊娠5ヶ月目に入っていたホイットニーの顔はふっくらとしていて、全身からハッピーなオーラが出ていた。

こんな幸せそうなホイットニーを見たのは初めてだった。ナラダはほんの数年前、ホイットニーがエディ・マーフィーに振られて心身ともに落ち込んだ時期を覚えている。だがそんな日々は去ったようだった。目の前のハッピー振りを見て、ナラダはホイットニーに新しい力が漲っていることを素直に喜んでいた。

極度のプレッシャーと過密したスケジュールにもかかわらず、ホイットニーは驚異的な集中力を見せた。そしてレコーディングを心からエンジョイしている様子だった。『ナラダ、ここのメロディ、ハーモニー重ねたほうがいい?』

通常部外者立ち入り禁止スタジオだが、ホイットニーがボーカル入れをしている最中に、スタジオにこっそりと潜り込んだ人物がいる。友人ナタリー・コールだった。妊娠中のホイットニーが文字通り大きいお腹を揺らしながら、高音のハーモニーに何度も挑む様子を見て、深く感銘を受けていた。

メインのボーカルだけでなく、驚異的な高音のハーモニー、『チャカ・カーン!』のシャウトアウトも含め、全てを3時間弱のセッションで仕上げたのだった。

愛する旦那を得たホイットニーは今、初めての子供の誕生を心から楽しみにしていた。ホイットニーは子供が大好きだった。全てが希望に満ちて見えた。「アイム・エブリウーマン」はボーカリストとしての最盛期、そして幸せの絶頂の中にあったホイットニーが録音した貴重な一曲なのである。

参考:”Whitney Houston: The Voice, The music, The Inspiration”
by Narada Michael Walden

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