「マイ・ラブ・イズ・ユア・ラブ」ホイットニーの新生面を切り拓いた名盤

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My Love Is Your Love
whitneyhouston.com

My Love Is Your Love | Whitney Houston (1998)

1. It’s Not Right But It’s Okay – 2. Heartbreak Hotel – (featuring Faith Evans/Kelly Price) – 3. My Love Is Your Love – 4. When You Believe (from “The Prince Of Egypt”) – (with Mariah Carey) – 5. If I Told You That – 6. In My Business – (featuring Missy “Misdemeanor” Elliott) – 7. I Learned From The Best – 8. Oh Yes – 9. Get It Back – 10. Until You Come Back – 11. I Bow Out – 12. You’ll Never Stand Alone – (Bonus track). I Was Made To Love Him

全世界の販売枚数:1000万枚
全米の販売枚数(RIAA):400万枚
米ビルボード200最高位:13位
米ビルボード200にチャート・インした週数:87


ロドニー・ジャーキンス、
ワイクリフ・ジーン、
ローリン・ヒルなどの大胆な起用。
ホイットニーの新生面を切り拓く


1999年の夏のニューヨークは、ホイットニーのヒット曲で溢れかえっていた。HMVやタワー・レコードもまだ健在の頃で、レコード店に行くたびに違ったリミックスがCDで出ていて、そのジャケットを手にとって眺めるのも楽しかった。

この年のニューヨークのゲイ・プライドのパーティーにホイットニーは唯一の出演を果たしている。

まだ「ロキシー」や「ライムライト」などの大箱のクラブも未だに人気で、特にIt’s Not Right But It’s OkayのThunderpus Remixのイントロが聞こえてくると、屋外も野外もフロアが熱狂した。素敵な夏だった。

1998年11月17日にリリースされた、ホイットニー・ヒューストンの8年振りのオリジナルアルバム「マイ・ラブ・イズ・ユア・ラブ」。おなじみのベイビーフェイスやデイビッド・フォスターに加え、ロドニー・ジャーキンス、ワイクリフ・ジーン、ミッシー・エリオット、ローリン・ヒルなどの大胆な起用がアルバムにヒップホップのフレイバーとエッジをもたらし、彼女の新生面を切り拓く名盤になった。

リラックスしながらも、ソウルフルに歌うホイットニーの声も心地よい。

マライアとの世紀のデュエット、「ホエン・ユー・ビリーヴ (When You Belive)」他、


フェイス・エヴァンス、ケリー・プライスとのコラボ作「ハート・ブレイク・ホテル (Heartbreak Hotel)」、


「イッツ・ノット・ライト・バット・イッツ・オーケイ(It’s Not Right But It’s Okay)」


「マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ (My Love Is Your Love)」等、次々とシングル・ヒットが生まれた。

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低調だったリリース当時のセールス


このアルバム、ビルボード誌チャートデビューが最高位13位、と当初セールスは低調であったが、数々のシングル・ヒットとラジオのエアプレイに支えられ、売上げを安定して伸ばす。世界中で1000万枚以上売り上げる大ヒット作となった。

当初、クライブと彼女はグレイテスト・ヒッツ・アルバムを製作する予定だったが、収録曲を集めている間に次々素晴らしいトラックが集まり、2か月たらずで新しいアルバムが出来上がってしまった。

アルバム製作の終了間際、ローリン・ヒルから「All That I Can Say」という曲をデモとして送られたホイットニー。

アルバムは既にマスタリングに入る段階で、アートワークも終了していた為、ホイットニーはこの曲を辞退、その代わりスティービー・ワンダーのカヴァー
「I Was Made To Love Him」をローリンのプロデュースでレコーディング。隠しトラックとして収録されている。

そして「All That I Can Say」は、後にメアリーJ ブライジによって大ヒットとなった。



疲弊しながらも
パワフルかつエモーショナル、
女性として成熟したボーカル


リリース・スケジュールのため、彼女はボーカル入れをたった4週間で済ませなければならず、彼女の声に大きな負担をもたらしたらしい。

確かに一曲目に歌入れをした「It’s Not Right But It’s Okay」と最後にレコーディングされた「I Was Made To Love Him」では彼女の声のコンディションが全然違う。

ホイットニーの声質は前作に比べ、更にざらつきが目立ち、かつて彼女のトレードマークであった天まで突き抜けるようなファルセットはここで聞く事はできない。にもかかわらずこのアルバムで聴くことのできる彼女の声はパワフルかつエモーショナルで素晴らしい。

この時期彼女が経験してきた個人的な問題、演技の経験、そして母親として、女性としての成長が、歌声に今までにはなかった味わいや奥行きを与えていて、歌に説得力がある。

このアルバムの中でホイットニーの気に入っている曲のひとつ、ボビ・クリスに向けて歌われた「You’ll Never Stand Alone」にはこんなエピソードがある。

「この曲をレコーディングした時、
私はレコード会社に対してすごく怒っていたの。
で、スタジオに行って(ベイビー)フェイスに『あの曲をかけて!』
気合を入れて3回歌ったら、フェイスに『もうこれで充分!』
と言われたわ(笑)』

同曲の3分00秒で聞かれるファルセットには、かつてのような素晴らしい倍音はなく、歌に対するアプローチもかつての完璧主義者だったホイットニーとは比較にならないほど大雑把でデモテープ状態。

だがその声の奥には彼女がこれまで表現しなかった、正直さ、痛み、慈愛、パッション、限りなく大きな愛があり、それが聞く者の心を捉えるのである。



各メディアが
「彼女のキャリアの中で最高の作品」
と絶賛したアルバム



ホイットニーの声の衰えは明らかにもかかわらず、「マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ 」は各メディアから絶賛されたアルバムで、彼女の最高傑作との意見も多い。ローリング・ストーン誌のロブ・シェフィールドはこう書いている。

「彼女のこれまでの作品で一番統一感のあるアルバムだ。
かつて純情だった彼女にも、今は成長した女性としての傷がある。
結婚生活の痛みを歌う彼女の声には、
これまでの彼女から想像もできなかった鋭さがある。
君は彼女が粉々になると思うか?
彼女が倒れてそののまま死んでしまうと思うか?
ぜひこのアルバムを聴いてくれ。
彼女は間違いなくサバイブすると証明してくれる。」

一方ビルボード誌のレビューはこう書かれている。

「ポップ、R&B、ゴスペル、ダンス・ミュージックに至るまで、
幅広いジャンルの全てで彼女が強みを発揮した、
とてつも無いアルバムだ。
様々なジャンルのライターやプロデューサーが参加して
制作されたアルバムにもかかわらず、
ヒューストンはその素晴らしい声で全体に統一感と
彼女ならではのアーティストとしての個性をもたらしている。
クロスオーバーヒットの可能性が非常に高い作品だ」

にもかかわらず、このアルバムのセールスがリリース当初低調だったのはなぜか?

第一に彼女の新しい音楽へのアプローチ(よりヘビーなR&Bとヒップホップ)がボディーガード以降のポップ路線の音楽を求めるファン層に戸惑いを与えた事である。当時のローリング・ストーンズ誌等でファンによるこのアルバムのレビューを読むと、このアルバムの評価は二つに分かれている。

一部のファンの層は彼女の新しいスタイルを素直に喜び、別なファンの層は彼女の変化に明らかな失望を示している。

第二に、このアルバムに先んじてリリースされたマライア・キャリーとのデュエット「When You Believe」のチャート上での失敗がある。

ディズニー映画「Price Of Egypt」のテーマソング、ベイビーフェイスによるプロデュース、そして世紀のディーヴァ二人のデュエットという、ヒットの要素を全て兼ね備えたように見えながら、この曲はラジオでのエアプレイにつながらなかった。

壮大ながらもラジオ映えのしないアレンジ、歌詞はバイブルのエピソードに基づいた宗教的な内容。音楽的な面においても、ホイットニーの歴代の素晴らしいデュエットの数々と比較すると印象的な作品ではない。


リミックスとラジオのエアプレイが長期的なヒットへ



このアルバムが長期的に成功した大きな要因は、Thunderpass 「It’s Not RIght But It’s Okay」、Jonathan Peters「My Love Is Your Love」、
H2Q、Junior Vasquez 「I Learned From The Best」に代表される、素晴らしいリミックスとクラブ・シーン、それに連動したラジオでのエアプレイである。特に「It’s Not Right But It’s Okay 」はリミックスによって、ダイナミックに生まれ変わり、ハウス系のクラブで人々を熱狂させた。

「My Love Is Your Love」のリミックスはHOT100で1位を獲得する事こそなかったが、ラジオでのエアプレイにより長期間TOP10内に君臨。

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3D FACTORS



また大ヒットしたが、このアルバムはホイットニーの精神状態も、声のコンディションも不安定なまま制作されたものだった。この時期のホイットニー、数々のインタビューからわかるように結婚生活の問題やドラッグ使用がかなり深刻化しており、数回のテレビ出演やパフォーマンスをドタキャンし始めている。

この時期のホイットニー詳細はホイットニーの母シシー・ヒューストンやロビン・クロフォードの本に詳しい。

ホイットニーの容体を心配したクライブ・デイビスはホイットニーにレコーディング開始前にコネチカット州のリハビリ施設に入所し、まずは休養するように父親のジョンを通じて勧めていた。ジョンとロビン・クロフォードは実際、リハビリ施設まで足を運びドクターにホイットニーの状態を説明していた。

ホイットニーの返事はリハビリ入りなんて絶対イヤ、私にドラッグの問題なんてないわ、と父親ジョンに泣きつき、リハビリ入りを撤回させ、大急ぎでレコーディングされたのが、このアルバムである。

そうなの、じゃあニューヨーク・ハンプトンにある、クライブの別荘で2週間静養(看護婦つき)したら?という周りの提案に、乗りかけていたホイットニー。

その晩に、ホイットニーの兄マイケルがやって来て、二人は(ドラッグをするために)部屋の奥へ消え、それっきり出てこなかったそう。ハンプトン行きの話はそのまま立ち消えになってしまった。

「家族が私の支え」といつも念を押すように話すホイットニーなので、なかなか信じがたいが、実はホイットニーの家族全員が、大事な場面でホイットニーの足を引っ張ってきた。

またこの時期ホイットニーはアルバムのプロモーションのため、数々の音楽番組やインタビューに出演しているが、その中でレコード会社のサポートの欠如について、不満を度々表している。

とあるインタビューでは「自分が誤ったビジネスを選んだと思うか?」という質問に対して、「私は自分に合ったビジネスを選んだわ。問題は関わっている人間(レーベル)よ。」

(問題をどう解決するのか、という質問に対して)「何もしないわ。ただ歌うのよ、思いっきりね。それが答えよ。彼らを跪かせるまでね」という怒りと皮肉に満ちた答えをしている。

参考出典:”A Song For You: My Life with Whitney Houston”
by Robyn Crawford

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