「ボディガード」音楽史上最も売れた驚異のサウンドトラックとその背景
The Bodyguard: Original Soundtrack Album (1992)
1. I Will Always Love You (Whitney Houston) – 2. I Have Nothing (Whitney Houston) – 3. I’m Every Woman (Whitney Houston) – 4. Run To You (Whitney Houston) – 5. Queen Of The Night (Whitney Houston) – 6. Jesus Loves Me (Whitney Houston) – 7. Even If My Heart Would Break (Kenny G/Aaron Neville) – 8. Someday (I’m Coming Back) (Lisa Stansfield) – 9. It’s Gonna Be A Lovely Day (The S.O.U.L S.Y.S.T.E.M.) – 10. Peace, Love And Understanding (What’s So Funny ‘Bout) (Curtis Stigers) – 11.Theme From The Bodyguard (Alan Silvestri) – 12. Trust In Me (Joe Cocker/Sass Jordan)
全世界の販売枚数：4500万枚
全米の販売枚数(RIAA)：1800万枚
米ビルボード200最高位：1位
米ビルボード200にチャート・インした週数：155
米ビルボード・チャートでは
合計20週のNo.1を記録
世界中で空前のヒットとなる
1992年の11月10日に発売された、ホイットニーの映画デビュー作「ボディーガード(The Bodyguard)」のサウンドトラック。ホイットニーは6曲に参加。世界中で4500万枚以上のセールスを記録する驚異的なヒットとなり、ビルボード史上最も売れたサウンドトラックとなった。
デヴィッド・フォスターのプロデュースのもと、ドリー・パートン作のカントリー・ソングに新しい生命を吹き込んだ世紀の絶唱 「I Will Always Love You」、
CC&Music Factoryのリミックスによってスタイリッシュに蘇ったチャカ・カーンのカバー曲「I’m Every Woman」、
ホイットニーの圧倒的なパワーと表現力を感じるバラード「I Have Nothing」と「Run To You」、
透き通る歌声が印象的なゴスペル「Jesus Loves Me」等、アルバムとしてのトータル性はないが、一つ一つの曲の粒がそろったカタログ的なアルバム。ホイットニーの6曲中5曲がシングルカットされた。
女性としての円熟味とたおやかさ、
比類なき表現力を見せつけた
ホイットニーのボーカル最盛期
ホイットニーの声自体が最も円熟味を持っていた頃。多くが、この頃の彼女の声がピークだったと考えていると思う。但し注意を払って聞くと、すでに彼女の声は疲れの気配を見せ始めている。
同時に彼女の声自体もまだ成熟の過程にあったのだろう、前作と比べて彼女の声が圧倒的に太く、ダイナミックになっている。なおかつその声にはかつては感じられなかった女性としての、優しさ、たおやかさ、そして母性を見出すことができる。
個人的には何年経っても全然色褪せないCC & Music Factoryによるハウスチューン、「I’m Every Woman」が特に好き。スローなイントロからのドラマチックな曲の展開の仕方、ホイットニーのまるで雷鳴のような高音部の声のハリ、完璧なサウンドプロダクション。
この時期にホイットニーはローリング・ストーン誌のインタビューで、興味深い発言を残している。
『この先どういった音楽を私がやるつもりなのか、いろんな人に聞かれるわ。
でも正直私自身にもどうしていいか分からないの。』
意外なことにクライブ・デイビスはホイットニーにこの映画に出演してもらいたくなかったらしい。クライブはホイットニーの撮影現場に常に電話をしてはサントラの選曲について干渉し、プロデューサーから煙たがられていた。
ホイットニーはホイットニーで、クライブを押し切って参加した映画ゆえ、サントラでコケるわけには絶対行かない。初めての女優業で主演女優。しかも相手はハリウッドきっての人気俳優ケビン・コスナー。このサントラはホイットニーが凄まじいプレッシャーと闘いながら作ったものだったのだ。
前作のR＆B寄りの音楽的なアプローチは比較的失敗と受け止められていたところに、予期せぬ女優としての爆発的な成功。だがこのサウンドトラックの成功には、次にホイットニーが音楽的にとるべきヒントは何一つ含まれていない。この成功をホイットニーは甘受したものの、同時に彼女は途方に暮れていたのだった。こうしたことも彼女を疲れさせる要素であったろう。
映画公開後、間も無くホイットニーは1993年の3月にボビ・クリスを出産。そして同年7月から18ヶ月に及ぶ「ボディガード」ワールド・ツアーに出ている。過酷なスケジュールとそして喉への大きな負担。ボディーガードのツアーはホイットニーの声を大きく変えてしまう。
1994年7月。ホイットニーはロサンジェルスで開催されたワールドカップの閉会式でメドレーを歌うことになっていた。だが直前に喉の炎症が悪化し潰瘍になってしまった。歌えば声帯に致命的なダメージを与える可能性がある、との診断で２週間のドクターストップがかかってしまう。
ホイットニーはなんとかライブで歌わせようとするプロモーターからのプレッシャーに押されていた。そこに母親シシーがエンヤコラと登場。ホイットニーはどうしていいかわからず、シシーに抱きついて泣いた。
翌日ミーティングでシシーはホイットニーには歌わせないと宣言。「セイフティ・テープ」と呼ばれるリハ中に録音された音源を使い、ホイットニーには異例の口パク・パフォーマンスとなった。もし野外ライブが実現していたら一番楽しんだのはホイットニー本人だったかもしれない。残念だ。
参考：“Remembering Whitney: My Story of Love, Loss, and the Night Music Stopped”
by Cissy Houston:
“A Song For You: My Life with Whitney Houston”
by Robyn Crawford
