「この愛にかけて」バックグラウンド・シンガーが語るホイットニー・ヒューストンの才能
ホイットニーの三枚目のアルバム、「アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト」に収録され、ホイットニーの9枚目のNo.1シングルとなった王道バラード「この愛にかけて」。繊細かつドラマチックなホイットニーのボーカルとパワフルなゴスペル調のコーラスを配したこの曲は、ホイットニーのカタログのなかでも人気上位を占めることが多い。
ホイットニーがこの曲のボーカルを吹き込んだ時、プロデューサーのナラダ・マイケルウォルデン)はホイットニーがエンディングの箇所で「必要以上に歌い過ぎている」と感じた。そしてこういう提案をする。
「ホイットニー、エンディングでこれ以上歌ったら、この曲は爆発してしまうね。」
「オーケー。どうしたら良いの?」
「この曲をコンサートで歌っているところを想像して欲しいんだ。曲を終えて、「Woo!」と発した後、マイクを残して、君はステージを去る。バンドとクワイアはそのまま演奏を続ける。そういう雰囲気を出せるかな」
「そのアイデア、新鮮で良いわね。気に入ったわ!」と答えるホイットニー。
その結果仕上がった「この愛にかけて」。ホイットニーの「Woo!」の後、25秒間続く圧倒的なコーラスとオーケストレーションが、曲に素晴らしい余韻をもたらしている。
これはナラダにとっても大きな成長の一つであった。2枚目のアルバム制作に関わった際はとにかくホイットニーのボーカル・スキルを表に出すことしか考えていなかったが、 時には「シンプルであればあるほど、良い結果を生むこともある」ということを悟ったのだという。
このクワイアのセッションに加わったバックグラウンド・シンガー、クレイトベン・リチャードソンはこう語っている。
「僕達は前もって録音されたホイットニーのボーカルにバックグラウンド・コーラス(クワイア)を足したのさ。彼女のボーカルに合った雰囲気を出せたのは、バック・シンガー達の能力だけではなく、プロデューサーだったナラダ(・マイケルウォルデン)の腕前が大きい。(曲中にあるホイットニーとクワイアの)コール&レスポンスができる限り本物らしく聞こえるよう、ナラダは気を配っていたよ。
ホイットニーのレコーディングに参加したこと、そして彼女のレコーディングしたボーカルを一般大衆が耳にするずっと前に聞くことができたのは、まさに特権としか言いようがないね。
僕はこの時期のホイットニーの声のピュアさと、単純な一行を感情に溢れたものに変えることのできる才能に惚れ込んでいた。これこそ神から授かったギフトだよ。
ホイットニーが歌えばどんなに単純な曲でも、『ワオ!こんな素晴らしい歌を聞いたことがないよ』という結果になるんだ。
現在の若いシンガー達は過剰なアドリブや節回しで聴く人を印象づけようとするけれど、正しい技術を身につけるのが、シンガーには一番大事なことなんだ。単純なメロディーを、飾らずストレートに歌っただけで、聞いている人たちの感情を揺さぶることができる、それこそが特別なスキルで、本物の才能なのさ。」
出典:”Whitney Houston: The Voice, The music, The Inspiration” by Narada Michael Walden