「ボディーガード」時代のホイットニー・ヒューストン、黄金の必聴ボーカル「Look Into Your Heart」
「People Get Ready」「Keep On Pushin’」等の曲や映画「スーパーフライ」のサントラ等、数多くのヒットで知られるカーティス・メイフィールド。1950年代から90年代にかけて活躍したソング・ライター・プロデューサーだ。そして黒人音楽に最も影響を与えた偉大なアーティストの一人である。1999年に亡くなった。
1990年8月、悲しい事件が起きる。コンサート中、照明器具が彼の上に墜落し、メイフィールドは下半身付随になってしまう。経済的な困難に直面したカーティスのために、1994年2月にトリビュート・アルバム「A Tribute to Curtis Mayfield」がリリースされる。ホイットニー、アリサ・フランクリン、グラディス・ナイト、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、スティービー・ワンダー等、錚々たるメンツが参加した名トリビュート・アルバムである。
ホイットニーは、後に自身がプロデューサーとしてリメイクに関与した映画「スパークル」より「Look Into Your Heart」というトラックを選んでいる。プロデュースはおなじみ、ナラダ・マイケル・ウォルデン。(映画中では主演のアイレーン·カラが歌っているが、映画のサントラにはアリサ·フランクリンのバージョンが収録されている。
このプロジェクトはギャラのないボランティア参加。ボビ・クリスティーナも既に生まれ、「ボディーガード」のツアー中だったホイットニー、最も多忙だった時期だ。断ることも出来たはずだが、当時人気の絶頂期にあったホイットニー、自身の参加がカーティスのプロジェクトに追い風になるのを理解していた。
ボーカル録りのセッションはいつもと同じように3時間以内に終了した。残念なことに「Look Into Your Heart」はホイットニーとナラダの二人による最後の仕事となった。
クライブ・デイビスやアリスタの関与のないプロジェクトでのホイットニーのボーカルには、独特の荒さと見事なグルーヴがある。正確な日付は明らかではないが、93年後半にレコーディングされており、ホイットニーの最盛期のボーカルが堪能できる数少ない一曲である。まさにゴールデン・ボイス!ホイットニーの発する一つ一つの言葉から、喜びが溢れているようだ。是非、ヘッドフォンで聴いてみて欲しい。
このレコーディングに同席したアシスタント・プロデューサーのプレストン・グラスはこう語っている。
「ホイットニーと初めてレコーディングした曲が「恋は手探り」だったからか、ナラダはあの曲のホイットニーのボーカルに特別な思い入れがあるようだった。
ナラダはホイットニーにこう言ったんだ。「『恋は手探り』の出だし、覚えているだろう?『There’s a boy..! 』あれと同じことをこの曲にもしてみて欲しいんだ。」ナラダは『恋は手探り』の出だしにあった、炎のような何かを求めていた。そして1発目のテイクでホイットニーがそれをやってのけた時、ナラダは「まさしくこれだよ!」と言わんばかりの大きな笑顔を見せたんだ。
「この曲は君にとってどんな意味があるの?」とナラダがホイットニーに聞いた時、ホイットニーはこう答えていたよ。「アリサはこの曲のとてもパーソナルな詩の内容を見事に解釈しているわ。私もアリサと同じ誠実さを保ちたいと思っているの」
「それじゃ、自分のハートを覗いてみてごらん(Look Into Your Heart)」
そしてホイットニーはその通りにやってのけたんだ。彼女のリラックス振りと地に足のついた態度にも感心したけれど、スタジオのスピーカーから流れてくるホイットニーの声は、驚異的としか言いようがないほど素晴らしかったよ。
出典:”Whitney Houston: The Voice, The music, The Inspiration”by Narada Michael Walden