「ホイットニーII~すてきなSomebody」チャート初登場一位・ポップの決定盤
Whitney | Whitney Houston (1987)
1. I Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me) – 2. Just The Lonely Talking Again – 3. Love Will Save The Day – 4. Didn’t We Almost Have It All – 5. So Emotional – 6. Where You Are – 7. Love Is A Contact Sport – 8. You’re Still My Man – 9. For The Love Of You – 10.Where Do Broken Hearts Go – 11. I Know Him So Well
全世界の販売枚数:2000万枚
全米の販売枚数(RIAA):900万枚
米ビルボード200最高位:1位
米ビルボード200にチャート・インした週数:88
女性アーティストとして初
全米アルバム・チャート
初登場1位という快挙を記録
1987年6月2日にリリースされた、ホイットニー・ヒューストンの2ndアルバム。女性アーティストとして、初の全米アルバム・チャート初登場1位という快挙を記録する。
デビュー作で「恋は手さぐり」を手がけたナラダ・マイケル・ウォルデンが11曲中7曲のプロデュースを手がける。そしてカシーフとマイケル・マッサー、そしてジェリービーンズが脇を固めた。前作よりアップテンポの曲が増え、ダンス・ナンバーとバラードが優れたバランスで配された、80年代を代表するポップ・アルバムである。
全米チャート7曲連続1位
ビートルズも達成できなかった
前人未到の記録
シングルカットされた「すてきなSomebody(I Wanna Dance with Somebody)」、
「恋のアドバイス(Didn’t We Almost Have It All)」、「やさしくエモーション(So Emotional)」、「ブロークン・ハーツ」(Where Do Broken Hearts Go)」の4曲が全米No.1を獲得し、前作からのシングルも合わせ7曲連続1位という、ビートルズにも達成できなかった前人未到の偉業を達成。全世界で2000万枚以上を売り上げる大ヒット作となった。
先行シングル「すてきなSomebody」は第30回グラミー賞にて「最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス」を受賞。前作の「すべてをあなたに」に続き、2度目の受賞となる。
このアルバムの目玉はホイットニーの声。健康的で躍動感に満ちていて、伸びやかな高音から小鳥のさえずりのようなファルセット、言葉のニュアンスやフレージングまで、このアルバムでは彼女のボーカルを最大限に堪能できる。
彼女のボーカルの圧倒的なバネに驚かされる「すてきなSomebody」、官能的で繊細な表現が印象的な「ひとりにしないで(Just A Lonely Talking Again)」、スピーカーが振動する程の声量を発揮した王道バラード「恋のアドバイス」、
野性味溢れるスリリングなヴォーカルがきける「やさしくエモーション」。
ケニー・Gのサクソフォンを配し、透き通ったその声でアイズレー・ブラザーズのヒットに新しい命を吹き込んだ傑作「ラブ・オブ・ユー(For The Love Of You)」、母親シシーとのデュエット、「I Know Him So Well」ではホイットニーの瑞々しい声が、シシーの深く節だった声と見事なコントラストを描き、アルバムの終わりに感動を残す。
商業的に大成功したが、
前作に比べ更にポップな内容に
批判の声が集まる
商業的に大成功を収めたアルバムだが、ニューヨーク・タイムズや米ローリング・ストーンズ誌はこのアルバムに厳しい批評を寄せている。
ローリング・ストーンズ誌のVince Alettiは、「前作で商業的な成功の為に取られ、今回も引き継がれたアプローチは前回より幅のせまいもので、ヒューストンの持つ可能性を広げるよりも、却って狭めているように見える。独善的で押し付けがましく、なんの目新しさもない作品」と酷評。
ポップ路線での立て続けのヒットが
ブラック・コミュニティーの反感を買う
このアルバムの制作に先立って、プロデューサーのナラダ・マイケル・ウォルデンが、大ヒットしたデビュー作の後のアルバム製作に、プレッシャーがないか彼女に尋ねたところ、「1枚目のアルバムで私のことを気に入ってくれたなら、2枚目だって間違いなく気に入ってもらえるはずよ」と落ち着いて答えたそうで、それを聞いてナラダは彼女の自信に感銘を受けたそう。
ビヨンセやアリシア・キーズらが
憧れたスター、ホイットニーは
後に続く女性アーティストのために
道を拓いた
この時期のホイットニーの取ったポップ寄りのアプローチは、マライア・キャリー、アリシア・キーズ、ビヨンセ、ケリー・ローランド、ジェニファー・ハドソンら、数々のシンガーを大きくインスパイアしている。
数々の女性シンガー達がインタビューで、「すてきなSomebody」のミュージック・ビデオのホイットニーに憧れ、テレビに釘付けだったと明かしている。
このアルバムからホイットニーを聞き始めたため、思い出深い作品。「すてきなSomebody」のサビの Ohhhhhhh!という箇所を聞いた時、圧倒的な声のパワーと豊かさ、漲る生命力にたまげたを覚えている。湯川れい子先生の「すてきなSomebody」って邦題も80年代っぽくてイカしてます。
アルバムの中盤、マイケル・マッサーの曲がどれも似たような曲に聞こえ始め、頭が眠気で朦朧とし始める瞬間もあるが、急に「For The Love Of You」で頭は冴え渡り、母娘デュエット「I Know Him So Well」までの流れは圧巻。
ブラック・オーディエンスがどう捉えたかを別とすれば、このアルバムはブラック・ミュージックと白人オーディエンスの壁の一部を壊し白人オーディエンスにも受け入れられた稀なケースなのだ。
ホイットニーの才能を人種の壁を超えて受け入れさせたこのアルバムは、同時にアフロ・アメリカンのコミュニティの中に彼女への批判を生むこととなる。彼女に対する評価と意見を二極化させ、ホイットニーのキャリアをより複雑なものにしたのである。
1988年ソウル・トレイン授賞式でホイットニーが経験したブーイングは、ホイットニーが乗り越えることのできない心理的な傷となったと言われている。またこの事件は次のアルバム「I’m Your Baby Tonight」の方向性に強く反映されることになる。
この時期、ホイットニーはエッセンス誌のインタビューで「(自分に)充分な黒人らしさがない、という批判に対し、どう思うか?」と問われ、完璧なレスポンスをしている。
「黒人らしさって、どういうこと?このビジネスに関わってから、私はずっとそのことについて考えてきたわ。私は『黒人のような』歌い方も知らないし、『白人のような』歌い方も知らない。
私はただ歌い方を知っているだけ。
音楽は『(肌の)色』と関係ないはずでしょ。私にとって音楽はアートなの。
参考:
“Remembering Whitney: My Story of Love, Loss, and the Night Music Stopped”
by Cissy Houston