世紀のディーバ比較〜バーブラ・ストライサンド対ホイットニー・ヒューストン

912月 - による HRS Happyman - 0 - セレブリティ ボーカル徹底解説
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Text: HRS Happyman

ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエル、ジャニス・ジョップリン、そしてホイットニー・ヒューストン。数々のスターを輩出した伝説のレコード・エクゼクティブ、それがアリスタのクライブ・デイビスだ。

彼は究極のディーバとして次の3人を挙げている。アレサ・フランクリン、バーブラ・ストライサンド、そしてホイットニー・ヒューストンである。

この三人は別格の才能と、全く異なった個性を持っている。アレサは驚異のレンジ、溢れ出るようなエモーションと声量、ドスの効いた迫力。ホイットニーの声もゴスペルで鍛えたパワフルさはあったが、繊細で洗練された表現力も同時に備えていた。この二つの声の違いがソウルとポップの境界線を生むのだろう。

そして今回紹介するバーブラ・ストライサンド。ホイットニーが亡くなった後、私がハマったのがバーブラ・ストライサンドの初期の作品である。日本であまり耳馴染みがないアーティストかもしれない。彼女は声でビジュアルを描くことのできる稀有な歌手で、映画女優、監督としても未曾有の成功を収めている。アカデミー賞、トニー賞、エミー賞、グラミー賞の全てを受賞した数少ないアーティストの一人だ。

個人的に好んで聞くのは初期の作品(70年代前半以降は彼女の声とサウンドが変わってしまう)に限られるが、バーブラは言葉を特に大切にする歌手で、言葉へのニュアンスの加え方が桁違いに上手である。

元々女優志望だが当時、外見が災いして仕事が見つからず、ウェスト・ビレッジのラウンジで歌い始めた背景がある。つまり「歌」を自分を表現する「舞台」にしたのである。

この頃(60年代)の彼女のお茶目さとユニークさ加減はホント素晴らしくて、既にゲイ・アイコンになる要素が全て揃っていたと認めざるを得ない。加えて歌手としてトレーニングを受けたことがない、という天賦の才能である。

バーブラは歌う曲によってキャラクターが変わる。セクシー、コケティッシュ、お笑い、コロコロ変化して、飽きない。加えてその声の素晴らしさ。伸びやかな声そのものがバイオリンやトランペットになったりする。

初期のアルバムは選曲もユニークで、古いジャズやコミカルなショーチューンなど、彼女しか醸し出せないどこか奇妙な、素晴らしい世界がある。

バーブラはホイットニーのデビューまで「世界で最高の歌手」とのタイトルを誇っていた。バーブラもメッチャ気が強いので、自分の持っていたタイトルがホイットニーに移ったのは愉快なことでは無かったろう。だが、ホイットニーの声と存在にはバーブラにはないユニークなものがあり、それはバーブラも認めざるを得ないところだ。

ホイットニーはバーブラの大ファン。デビュー前はバーブラの「エバーグリーン」をクラブで良く歌っていた。また「母親のシシーとバーブラ・ストライサンドが唯一、彼女のことを泣かせることができるシンガー」なのだと発言している。

母親シシー・ヒューストンも、『歌詞を大事にするなら、まずはバーブラ・ストライサンドを聞け』とホイットニーにアドバイスしている。

2008年のラジオ・インタビューで「次にリメイクするとしたらどの曲?」と言う質問を受け、ホイットニーは「(バーブラ・ストライサンドの)『People』」と答えている。

ホイットニーの最盛期に、二人のデュエットが実現しなかったのが何より残念。だが、可能性はまだ残っている。

ホイットニーは未発表の「Halfway Through The Night」という曲のボーカルを残しており、権利はソニーが持っているらしい。(この曲は以前バーブラも録音している)このトラックに現在のバーブラのボーカルを載せれば世紀のデュエットの誕生だ。今からでも遅くない。PLEASE MAKE IT HAPPEN!!!

ホイットニーは素晴らしいフレージングで有名だが、特にファースト・アルバムのバラードにはバーブラのフレージングの影響が見受けられる。

クライブのホイットニーの「プロダクトとしての方向性」が「アレサ・フランクリン + バーブラ・ストライサンド」だったこともあるが、ホイットニーとクライブは「バーブラのフレージングの素晴らしさ」についてよく議論したらしいから、納得だ。

バーブラは1986年のグラミー授賞式で「すべてをあなたに」のパフォーマンスを目前で見て、ホイットニーに非常に感心する。パフォーマンスの後に「あなたスゴいわ〜ステージで緊張しないのォ??」とホイットニーに歩み寄って話しかけたそうだ。



バーブラは「ため息つかせて」のサントラがお気に入り(女性アーティストのみのアルバム、というアイデアが気に入ったらしい)」で、中でも特にホイットニーの「ため息つかせて」が好きだったそうだ。

ホイットニーが亡くなった時にバーブラはこうツイート。「ホイットニーは美貌、素晴らしい声、全てを備えていた。私達に幸せを運んでくれた彼女の才能が彼女自身を幸せにすることができなかったなんて」と悲しみを表現している。

ホイットニーはデビュー以降も数回バーブラの曲をパフォーマンスしている。バーブラのバージョンと比べてみると興味深い。

全く異なったアプローチをしているために、勝敗が付けられないものが多い。皆さんはどう思われるだろう。ホイットニーの「My Man」は圧倒的だが、バーブラのオリジナルも驚異的な素晴らしさだ。

「I Know Him So Well」と「God Bless America」は個人的にホイットニーのバージョンの方が好きかな。バーブラの「 A House Is Not Home」は聞いて驚いたが、ドラマチックで素晴らしく良い。「People」はホイットニーの大声(ほぼお叫び状態)が曲の繊細さをぶち壊した印象だね、残念ながら。

興味深いのは最後のThe Christmas Song。ホイットニーの歌唱はバーブラのバージョンと全く同じリフやフレージングを数カ所で聞かせている。ナット・キング・コールのオリジナルをまず聞いた上で是非、二人を聴き比べてみて欲しい。

最盛期をとうに過ぎ、枯れた声のホイットニーが歌ったこの曲だが、それなりに味わいがある。ホイットニーがバーブラのバージョンに聞き馴染みがあるのは一聴で明らか。(因みにバーブラ・ストライサンドはジューイッシュだけれど、クリスマス・アルバムを発表している。名作デス)


My Man


People


God Bless America


A House Is Not Home


I Know Him So Well


The Christmas Song

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