エディ・マーフィーとの破局後に録音されたホイットニー・ヒューストン幻の名曲、「Feel So Good」

Pocket

1990年初頭のある日、ミュージック・プロデューサー、ナラダ・マイケル・ウォルデンの元に一本の電話が入る。ナラダは当時ホイットニーのアルバム、「アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト」を制作中だった。

電話は崇拝するスピリチュアル・グールーからだった。彼がナラダにこう告げる。「ホイットニー・ヒューストンに気をつけてあげなさい。とてもよくないことが彼女に起きている。彼女はとても落ち込んでいて、死に近いところにいる」衝撃のメッセージである。

ナラダはそれまで仕事の話やスターについての話をグールーとした事がなかったため、そんなメッセージに仰天。とにかく数日前にホイットニーがボーカル入れをしたトラックを慌てて聞き直すナラダ。

その曲が同年リリースされるシングル「アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト」のB面に収められた「Feel So Good」である。アルバム未収録ゆえ、この曲の存在すら知らないファンも多いだろう。

ナラダが振り返えると、この曲のセッション中、確かにホイットニーには元気が無かった。アーティストにはそんな事もあるだろう。いつものジョークや弾ける笑顔はなしで、とにかく仕事に集中。ホイットニーは全力でエネルギーを「仕事」に注いだ。それがこの曲のボーカルである。

スムースでゴージャスなナラダのキラキラしたアレンジメントとホイットニーのボーカルのケミストリーがとにかく素晴らしい。この時期のホイットニーのボーカルは最高だ。後半はアドリブに満ちていて卒倒モノのファルセットが楽しめる。

それにしてもその時期にホイットニーに何が起きていたか。80年代後半、ホイットニーはロサンジェルスの写真撮影会でエディ・マーフィーと出会う。その後付き合いが始まり、次第にホイットニーはエディに熱烈に恋をしてしまう。

元々恋愛経験に乏しかったホイットニーは、ストリートの知恵と知性、そして色気とカリスマを備えたエディに簡単に墜ちた。それは彼女があまりに無防備で、天真爛漫だったせいもある。

女性があまり簡単に男性に落ちた場合、まともな恋愛へ育つ可能性は残念ながら低い。男が軽視するからだ。加えてホイットニーには男性とのまともな恋愛経験がこれまでなかった。エディは公然とホイットニーとの付き合いを否定し、撮影所ではホイットニーについて冗談を言い、彼女の髪のくせを笑ったという。

そしてエディは婚約指輪としか見えないダイアモンドの指輪をホイットニーにプレゼントしておきながら、すべてを一方的に終えた。エディにとって若気の至り、もしくは気まぐれだった。だが男性経験の殆どないホイットニーには、これは本当に酷な仕打ちだった。彼女は自尊心を深く傷つけられたのである。

エディがホイットニーの家でのお手製ディナーをすっぽかした話は有名だが、その後、ホイットニーは懲りずにエディの誕生日に彼の邸宅をサプライズで訪れた。ケーキを携え、毛皮の下はランジェリーのみ(ベイおばさんのアドバイス)という嘆かわしい姿である。

ホイットニーはエディの邸宅の門で15分待たされた後、邸宅からやってきた使いの者に、「帰ってくれ、今エディは(他の女性と)忙しいから」と言われたのだ。

その後2日間ホイットニーは家に戻らなかった。ボロボロの姿で家に戻ったホイットニーは食事も取らず、ドラッグをし続けて眠らなかったため、ガタガタと震えていた。そして立ち上がる事もできないほど消耗していた。ロビン・クロフォードが彼女を支え、アシスタントのシルビアがバスタブにお湯を張る間、ホイットニーは静かに「何で私を愛してくれないの?」と泣いていた。

参考:”Whitney Houston: The Voice, The music, The Inspiration”
by Narada Michael Walden
” A Song For You: My Life with Whitney Houston”
by Robyn Crawford

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です