母親シシーがホイットニーに教えた歌の極意(教会デビュー編)

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1990年にホイットニーがスティービー・ワンダーとともに出演した人気番組「アールセニオ・ショー」。司会者のアールセニオ・ホールに初めて教会で歌った時のことについて聞かれ、ホイットニーが即興で「Guide Me Thou Great Jehovah」を歌ったのが上のビデオである。彼女の声の持つマジックが凝縮された素晴らしい30秒間。

母親シシー・ヒューストンによる著書、「Remembering Whitney」によると、
ホイットニーが歌手になると宣言したのは彼女が12歳の時だった。自らの音楽業界での苦い経験もあり、初めのうちどうにかあきらめさせようとしていたシシーだが、ホイットニーの決意は固かった。

上の動画は1987年にアメリカPBSで放映されたシシー・ヒューストンのドキュメンタリー。このドキュメンタリーの中でホイットニーはもし母親が歌手ではなく、他の職業についていたら、自分が歌手を目指すことはなかっただろう、と興味深い発言をしている。

彼女の真剣さを感じ取ったシシーはホイットニーにこう告げる。「わかったわ。助けてあげる。その代わりルールがあるの。本当に歌手になりたいのなら、正しく歌うクセを身につけなくてはダメ」

週7日毎日シシーと一緒にレッスン、そして日曜日にはクワイア(合唱隊)と一緒に教会でゴスペルを歌った。例外は一切なし。

シシーはホイットニーに対してとりわけ厳しかった。家族や関係者によると、そこまでキツく当たる必要があるの?と言いたくなるくらいだったそう。

上のビデオでも47分の箇所から教会のメンバー達が「(シシーは)本当に意地悪になることもあったわ」シシー本人が、「侮辱的で高圧的な(教師)かしら?アハハ」と笑い話にしているが、元々クワイアーの練習でのシシーの厳しさは有名で、ホイットニーの兄のゲイリーもシシーからトレーニングを受けたことがあるが、彼は早々に脱落。

公では上品に振る舞うシシーなので、想像つかないかもしれないが、関係者にはメッチャ気が強く、人を罵ることも厭わないことで知られるシシーである。顔も正直怖い。目をカッと見開いて睨まれたら大抵の人間が気絶することだろう。

remembering Whitney

ホイットニーを励ましたというよりはナンセンス寸前の一方的な厳しさと威圧的な態度をもってホイットニーにもっと上を目指すよう、もっと上手く歌うよう詰め寄ったのである。

勿論ホイットニーはそんな扱われ方が気に入らなかったが、なんとか食らいついて頑張っていた。練習後、怒りでシシーと口をきかない時もあったが、翌日のレッスンには決して遅れなかった。

「あの子は真剣で、自分の全てを歌うことに注ぎ込んでいたわ。だから私の決めた決まりも守って、頑張れたんでしょうね。」

ホイットニーはクワイア・メンバーの前できつく叱られ、フラストレーションを貯めることも多く、シシーはさすがに後悔することもあったらしい。

「ママにはいつも、自分が上手に歌える日なんて来ないんじゃないか、って気分にさせられたわ。あまりの屈辱で、床を這って逃げ出したくなることもあったわよ」とホイットニー。

「私は後悔したが、これが姉からの教わり方だった。冗談は一切なし。だから私も同じ風にホイットニーに教えたの」とシシーは書いている。

では彼女は一体何をホイットニーに教えたのか?シシーは著書で次の二つのことを上げている。


まずメロディーを完全に理解すること


「まずはメロディーを完全に理解すること。どんな曲も、なぜそのようにメロディーが書かれたかにはちゃんと理由があるの。正しく歌を歌うにはまずそれを理解する必要があるわ。

一旦それをマスターしたら、アドリブを加えたり自分なりに工夫して歌うのも良いけれど、どんなときも、まず私はホイットニーがメロディーを完全に理解しているか、確かめたものよ。


一つ一つの言葉を
はっきりと発音すること


「それともう一つ、私が彼女に教えたのは一つ一つの言葉を、はっきりと発音する、ということ。言葉に対してとても注意深くならなくてはダメ。そして聞き手が自分の歌詞を理解しているかどうか確かめること。

彼女が歌詞を適当に口にしたときは言葉をはっきりと!」とよく怒鳴ったものよ。彼女に歌の内容を出来るだけ強く感じてもらいたかった。さもなければ一体、歌に何の意味があるの?

どんな歌にもストーリーがあり、それを伝えるのが歌手の役割。歌手には曲を書いた人間のビジョンを観客に伝える責任があるの。もし歌にストーリーがなかったら、それは歌とは呼べないわね。」

数ヶ月の集中トレーニングを経て、ついにホイットニーはファミリーが通うニュージャージーにあるニューホープ・バプテスト教会にてソロを歌った。その曲が先に紹介したビデオで歌われた「Guide Me Thou Great Jehovah」である。

シシーは当日仕事が入っていたために、ホイットニー初のソロを見逃したが、家族や教会のメンバーたちが口々にホイットニーのソロを褒めちぎった。

「あの場にいた誰もが涙を流していたわ!」

ホイットニー12歳。既に歌手として、人の心に触れることのできるレベルまで成長していたのである。


下のビデオはデビュー・パフォーマンスではないが、彼女の若い頃の教会でのソロの様子。サビの部分での彼女の声の若々しさと見事なフレージングが特に印象的。

参考:”Remembering Whitney: My Story of Love, Loss, and the Night Music Stopped” by Cissy Houston

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