ボイスコーチが徹底解説!ホイットニーの絶唱パフォーマンス
ライブ・パフォーマンスの素晴らしさで知られるホイットニー。一体何が彼女のパフォーマンスを特別なものにしているのか。プロのとして25年以上の経験を持つボーカル・コーチ、ジョン・ヘンリーがホイットニーのパフォーマンス徹底解説。
ジョンは彼自身のYouTubeチャンネルのリアクション・ビデオで、様々なアーティストのパフォーマンスを技術的に解説しており、このビデオの中でもホイットニーの声が裏返ってしまった理由(8分35秒)など、興味深い点を取り上げている。
今回のライブ・パフォーマンスは、ホイットニーが11の賞を獲得した第4回1993年ビルボード・アワードでの名パフォーマンス「アイ・ハブ・ナッシング」。
ホイットニーのミュージシャンとしてのマナー、バックフレージング、喉頭の位置、発音の調節、オーディエンスとの反応の仕方まで、彼女が「マスタークラス(超一流)」と呼ばれる所以を説明してくれている。
1:バックフレージングを効果的に使用
(40秒)「まずは曲の出だしからホイットニーは私達に素晴らしいことを教えてくれている。彼女は(歌の出だしを後ろにずらす)バック・フレージングをとても効果的に使っているよ。
本来の歌詞とメロディーのリズムを崩し、フレーズを自由に操っているね。不規則性を持ち込んで、オーディエンスの注意を自分に向け、期待をさらに膨らませているんだ。
偉大なシンガーは必ずしもオーディエンスが期待したものを聴かせるだけでなく、それを少し変えたものを聞かせることで、彼らの注意を自分に向ける。彼女はそこにかけては本当に達人だね。」
2:リズム(テンポ)のキープの見事さ
(2分35秒)「この箇所からホイットニーはオン・リズムで歌い始めているね。本来のメロディーのリズムをキープして、曲のサビに向かってオーディエンスの期待を徐々に盛り上げている。ここでの彼女のリズムのキープの仕方は見事の一言だ。」
3:二重母音に他の響きの音を加え、
見事な響きを作り出す(その1)
THERE’S NOWHERE TO HIDE~
(3分15秒)「曲の中の数カ所で、ホイットニーは本来の言葉の発音を変えて歌っている。
このHIDE(ハイド)という言葉には「アイ(ai)」の二重母音が使われているけれど、彼女はその「ア(a)」の音に「ウ(uh)」という響きを加えている。
なんでそんなことをするかって?
それが声に響きの豊かさや深さをもたらすからなんだ。
ほとんど別の言葉のように聞こえてしまうけど、どの言葉が次に来るか、皆知っているし、そうすることで声に色彩が加わるんだ。」
4:二重母音に他の響きの音を加え、
見事な響きを作り出す(その2)
DON’T MAKE ME CLOSE, ONE MORE DOOR
(3分15秒)「美しいね響きだ。サビの”クローズ”という言葉の発音に注目してみよう。
この「オー(o)」の音、本来は軽めで温かい響きになる音なのに、ホイットニーはそこに迫力を持たせるため、「ア(ah)」の響きを加えている。そうすることで喉の奥を開いて、彼女の求める堂々とした豊かな響きを作り出しているんだ。」
5:オーケストラとバンドを堂々とリード(その1)
(5分15秒)(5:15) 「シンガーを目指しているならとても大事なことがある。確かに高音で歌うこと、声の大きさ、声の質、それらも全て大事なことだ。
だがここでのホイットニーの歌は、曲の本来のリズムに裏打ちされていて、
1−2−3、1−2−3、とまるでダンスしているようだろう?
リズムやテンポに関しては、彼女はバンドだけじゃなく、オーケストラ全体をしっかりリードしている。ミュージシャンが集まって演奏をするとき、その中心となるのは曲のリズムなんだ。
シンガー達の多くはバックの演奏に自分を合わせてしまって、結果としてそれが全体のリズムの希薄さにつながってしまうことがあるんだ。
ここでのホイットニーは他のミュージシャンをリードしている。オーケストラ全員がお互いの音を聞き合いながら、呼吸がぴったりと合わせているだろう。それが一つのパワフルなパフォーマンスを生み出しているんだ。」
(7分25秒)(7:25)「ここでは彼女は全体をオン・リズムで歌っているが、ところどころ効果的にバックフレージングを使っているね。」
6:喉頭の位置をシフトし、声に豊かな響きと暖かさをもたらしている
「ボーカルコーチが喉頭(のどぼとけ)の位置について話し合っているのを聞いたことがあるかい?歌っているときに喉頭の位置が高いと声そのものは薄くなるけれど、声の質は明るくなる。
この喉頭の位置をやや低くすると声の質が深くなるんだ。つまり喉頭が声の明るさを切り替えるスイッチの役を果たすのだけれど、
ホイットニーは喉頭のコントロールが本当に巧みで、喉頭をやや低い位置に下げることで声に暖かさと、非常に豊かな響きをもたらしている。僕がホイットニーの歌が好きな理由のひとつだね。」
7:ホイットニーの声が上ずってしまった理由
WILL A MEMORY SURVIVE
(8分35秒)(8:35)「『Memories』の箇所で、彼女の声がうわずってしまっているようだね。この箇所でホイットニーは「メモリー(memory)」というより、ほとんど「ママリー(mamary)」と発音しているのだけど、
その口の開け方が喉頭の位置を上げてしまって、その結果、声がコントロールを一瞬失ってしまったんだね。こういたことは偉大なシンガーにだってよく起こることなんだ。
(9分30秒)彼女は落ち着き払って、すぐに曲に戻っているだろう。こういうところも彼女はまさしくプロフェッショナルだね。(9:30)
8:オーケストラとバンドを
堂々とリード(その2)
(10分00秒)(10:00)「ここでもシンガーの彼女が完全にオーケストラを仕切っている。ホイットニーは歌いながら曲のテンポを見事にコントロールしているだろう。指揮者がいるはずだけれど、彼もホイットニーに手のジェスチャーに注目して、彼女のリードに従っているはずだ。ホイットニーこそが指揮者なんだ」
9:母音に他の響きの音を加え、
見事な響きを作り出す(その3)
I HAVE NOTHING, NOTHING, NOTHING
(11分20秒)「Nothing」のロングトーンの「イー (i)」の音に注目してごらん。この「イー」の口の開け方は、結構難しくて誤魔化すするシンガーも多いのだけど、このホイットニーの「イー」の音は見事な素晴らしさ。
ただ「ナッシーング」と歌ったのだけでは「イー」の響きはひどいものだけど、
彼女はそこに「エー (e)」の響きを加えて、声に迫力と厚みを出しているんだ。「イー」の響きをキープしながら、それを豊かに響かせるなんて、決して簡単なことではないんだよ。声が裏返りやすい音だからね。
10:二重母音に他の響きの音を加え、見事な響きを作り出す(その1)
STAY IN MY ARM
(12分30秒)「オー・マイー・グッドネス!全くなんて素晴らしい声なんだ!
ここでも彼女は口を横に開いて出す二重母音の「アイ(ai)」に、「ウー(uh)」の響きを加えることで声を豊かで暖かく、クリーンなものにしているんだね。」
11:他のミュージシャンと呼応しながら、クライマックスへ向けて盛り上げる
(13分25秒)「本物のシンガーと、本物のミュージシャンだからこその素晴らしさ。ドラマーが素晴らしいリックを聴かせる中、ホイットニーは曲のエンディングに向け、エネルギーを盛り上げている。お互いのパフォーマンスに呼応し、ミュージシャン全員がこの一瞬に集中しているのがわかるね。
12:観客の反応を感じ取り、
所々じらしながら見事なフィナーレへ
(15分20秒)「エンディングでのホイットニーを聞いてみよう。クライマックスの後、ホイットニーはこの曲に素晴らしいエンディングをもたらしている。まずは観客の拍手と歓声を聞いて、それが収まりかけた時に歌に戻っていて、そのタイミングがまた絶妙なんだ。
少し止めてじらしたり、ホイットニーは観客の反応をきちんと感じ取っていて、gこのエンディングではホイットニーは観客を完全に自分の手中にいれてしまっているよ。
これはホイットニーが天賦の才能を持ったミュージシャンであることがわかる、素晴らしいパフォーマンスだよ。」